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電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(以下、電子帳簿保存法)のことで、国税関係帳簿等を一定の要件を満たすことで電磁的記録(以下、電子データ)で保存することを認める法律です。(電子帳簿保存法4①)
国税関係帳簿は国税に係る法律で一定期間の保存が義務付けられた書類です。電子帳簿保存法の改正により電子帳簿の保存要件が緩和され、電子取引については電子データとして保管することが求められるようになります。
本記事では2023年度の税制大綱を踏まえ、電子データで保存しなければならないもの、保存にはどのような要件を満たす必要があるのかを解説します。
改正の背景
ペーパーレス化が進展する中で、会計処理の分野でもコンピュータを使用した帳簿書類の作成が普及してきており帳簿書類の電子データでの保存について経済界をはじめとする関係各界から強い要望があり、電子帳簿保存法を改正し、国税関係書類の電子データでの保存が容認されるよう制度改正されました。
また、昨今は新型コロナウイルスの感染拡大に伴いリモートワークも普及しており、電子形式での保存を推進する目的で、2023年度の税制大綱では電子帳簿保存の保存要件が緩和されています。
適用時期
電子帳簿保存法の改正内容の適用スケジュールは以下の通りです。
適用時期 | 対応内容 |
2022年1月 | ・優良な電子帳簿の整備 ・スキャナ保存の要件緩和 |
2024年1月(2023年度税制大綱) | ・電子取引の電子保存義務化 ・検索機能の確保の要件緩和 |
電子帳簿保存法はかねてより適用されていましたが2024年1月から電子取引の電子保存が義務化されるため、これに対する対応が必要になっています。
対象となる書類
電子帳簿保存法の対象となる書類は、「国税関係帳簿」「国税関係書類」「電子取引」の3種類です。
国税関係書類等と保存方法をまとめたものが下記の図になります。

国税関係帳簿
国税関係帳簿とは国税に関する法律の規定により備付け及び保存をしなければならないこととされている帳簿で仕訳帳、総勘定元帳、その他帳簿(売上台帳、仕入台帳、現金出納帳、固定資産台帳、売掛金台帳、買掛金台帳等)を指します。
国税関係帳簿帳簿は電子帳簿保存法第4条1項により記録段階から会計システム等の電子計算機を使用して作成する場合には、その電子データをもって保存したものとすることができます。
国税関係書類
国税関係書類とは国税に関する法律の規定により保存をしなければならないこととされている書類で貸借対照表や損益計算書、棚卸表等、買掛金台帳等といった決算関係書類と見積書、注文書、納品書、検収書、請求書、領収書等の取引書類があります。
国税関係書類は電子帳簿保存法第4条2項により記録段階から会計システム等の電子計算機を使用して作成する場合には、その電子データをもって保存したものとすることができます。
一方で請求書や契約書などの取引書類について、紙面で発行した場合や他社が発行したもので紙面で受領したものについてはスキャナ保存することで電子データとして保存することができます。スキャナ保存は義務ではなく、紙面で受領した取引書類を必ずしも電子化する必要はありません。
電子取引
電子取引とは電子データでやり取りされる取引情報の記載事項すべてをいいます。例えばEDI(オンライン受発注システム)での取引データ、電子メールで受信した見積書、契約書等の取引関係書類やクラウドサービスの利用による電子請求書があります。
これらの電子取引は電子帳簿保存法第7条により2024年1月より義務化されます。
電子データの保存要件
電子帳簿保存法では、帳簿書類の電子データの保存にあたって、「真実性の確保」と「可視性の確保」を満たさなければならないとされています。(電子帳簿保存法施行規則第3条第1項)
真実性の確保
真実性の確保とは保存されたデータが改ざんされていないことを確保するもので以下の要件を満たすシステムの利用が必要になります。
要件 | 説明 | 根拠条文 |
①訂正・削除履歴の確保(帳簿) | 帳簿に係る電子計算機処理に、次の要件を満たす電子計算機処理システムを使用すること ・帳簿に係る電磁的記録に係る記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができる ・帳簿に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後に行った場合には、その事実を確認することができる | 施行規則第3条第1項第1号 |
②相互関連性の確保(帳簿) | 帳簿に係る電磁的記録の記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できるようにしておくこと | 施行規則第3条第1項第2号 |
③関係書類等の備付け | 帳簿に係る電磁的記録の保存等に併せて、システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)の備付けを行う | 施行規則第3条第1項第3号 |
可視性の確保
可視性の確保とは保存されたデータを検索・表示ができることを確保するもので以下の要件を満たすシステムの利用が必要になります。
要件 | 説明 | 根拠条文 |
見読可能性の確保 | 帳簿に係る電磁的記録の保存等をする場所に、その電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくこと | 施行規則第3条第1項第4号 |
検索機能の確保 | 帳簿にかかる電磁的記録について、次の要件を満たす検索機能を確保しておくこと (イ)取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目を検索条件として設定できること (ロ)日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること (ハ)二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること | 施行規則第3条第1項第5号 |
電子データの保存方法
国税関係書類等は上記保存要件を満たす会計システム等を通じて保存します。
電子データ保存
国税関係書類等のうち、電子データとして保存すべきデータは会計システムや各種管理システムを通じて保存します。保存にあたっては真実性の確保や可視性の確保の要件を満たす必要があり、利用しているシステムがこれに対応しているものか確認する必要があります。
スキャナ保存
請求書、領収書等の紙で発行・受領した書類についてはスキャナやデジタルカメラで読み取り電子帳簿保存法における電子データとして保存することが認められます。紙で発行・受領した書類についてスキャナ保存することは義務ではありません。スキャナ保存の対象となる書類は主に以下のもがあります。
【国税関係帳簿書類のスキャナ保存の区分】国税庁HPの電子帳簿保存法一問一答より(2023/2/3アクセス)

電子帳簿保存法上、スキャナ保存として認められるためには以下の要件を満たす必要があります。
【スキャナ保存の要件】
スキャナーの種類 | スキャナ、デジタルカメラ、スマートフォンなど、一定水準以上の解像度およびカラー画像による読み取りができるもの |
解像度 | |
画像 | |
タイムスタンプ | おおむね2か月+7営業日以内にタイムスタンプを付したスキャンデータを作成 但し、電子帳簿保存法に対応した会計ソフト等を使用して作った帳簿に関して、タイムスタンプは不要となります。タイムスタンプの付与は時刻認証事業者(TSA)のタイムスタンプシステムが必要で、実務的には電子帳簿保存に対応した会計ソフトで保管することが望ましいです。 |
検索要件 | 取引等の年月日、取引金額、取引先で検索可能な状態で保存する |
電子取引データの保存義務化
電子取引データとは請求書・領収書・契約書・見積書などに関する電子データのことです。電子取引データを送付・受領した場合には、その電子データを一定の要件を満たした形で保存することが2024年1月から義務化されます。
保存すべき電子データ
保存すべき電子データは電子メール・Webサイト上でやり取りした請求書・領収書・契約書・見積書などの書類の電子データです。これらの電子データはPDF、スクリーンショットの形式で保存する必要があります。
Web上で行った備品等の購入に関する領収書に相当する情報がサイト上でのみ表示される場合は、ダウンロードやスクリーンショット等で保存します。
保存要件
スキャナ保存と同様のタイムスタンプ、日付・金額・取引先による検索要件が求められています。
電子帳簿保存法に対応するために必要なシステム
電子帳簿保存法の要求に対応するためには電子帳簿保存法に対応したシステムの導入が便利です。特に電子取引については電子データの保存が義務化されることから、対応状況を確認し必要なシステムを導入することが必要です。
電子帳簿保存法の対応に進めるにあたって導入が想定されるシステムは以下の通りです。
請求書管理システム
請求書管理システムを用いると、請求書発行を電子化し、紙での送付をなくすとともに請求書データを電子データとして管理することできます。
経費精算システム
領収書の管理としてボリュームが大きいのが経費精算です。従業員の経費精算によって毎月多くの領収書が発生しますが、これらの領収書を写真を撮るとそのまま電子データの保存と経費精算処理ができるシステムがあります。
こういったシステムを活用することで経費精算の効率化と電子帳簿保存法の対応が同時に測ることができます。
会計システム
既に多くの会社で記帳業務は会計システムで実施されていると思いますが、各会計システムベンダーは電子帳簿保存法の対応として検索要件を満たす電子データを保存する仕組みを用意しています。
これらの機能を活用することで電子帳簿保存法の保存要件を満たす電子データの管理が可能になります。
まとめ
電子帳簿保存法の改正により、電子取引については電子データによる保存が義務化され、電子帳簿保存法の適用要件が一部緩和されました。本記事では対象となる帳簿や保存要件について解説しており、電子帳簿保存法対応の参考になれば幸いです。
また、より詳しい情報を必要とされている場合は参考文献に国税庁が公表している電子帳簿保存法に関するサイトを記載しており、適宜ご参照ください。
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よくある疑問点
電子帳簿保存法の改正対応にあたり実務でよく目にする疑問点について国税庁HPの電子帳簿保存法一問一答より抜粋してご紹介します。
Q.記帳代行業者に委託している場合でも認められるか。また、課税期間中に記帳せず、期間終了後にまとめて記帳することを委託し、電磁的記録を記帳代行業者の所在地にすることは認められるか A.記帳代行業者に委託することは認められますが、課税期間中に記帳しないことは認められません、また、保存場所について記帳代行業者の所在地にすることは認められません。 (電子帳簿保存法一問一答 電子計算機を使用して作成する帳簿書類編 問20より) |
Q.スキャナ保存をした場合、国税関係書類の書面(紙)はスキャナで読み取った後、廃棄しても問題ないか。 A.廃棄可能です。ただし、プリンタの最大出力より大きい書類を読み取った場合等、紙面の保存が必要なケースもあります。 (電子帳簿保存法一問一答 スキャナ保存編 問3より) |
Q.電子取引で受け取った取引情報について、同じ内容のものを書面でも受領した場合、書面を正本として取り扱うことを取り決めているときでも、電子データも保存する必要があるか。 A.電子データと書面の内容が同一であり、書面を正本として取り扱うことを自社内等で取り決めている場合には、当該書面の保存のみで足ります。ただし、書面で受領した取引情報を補完するような取引情報が電子データに含まれているなどその内容が同一でない場合には、書面及び電子データの両方を保存する必要があります。 (電子帳簿保存法一問一答 電子取引編 問13より) |
参考文献
「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(2023/2/4アクセス)
国税庁HP「電子帳簿等保存制度特設サイト」(2023/2/4アクセス)
国税庁HP「電子帳簿保存法一問一答」(2023/2/4アクセス)